トランス脂肪酸とは?
トランス脂肪酸は、マーガリンのような加工油脂やスナック菓子、インスタント食品、牛や反芻動物の肉などに含まれる脂肪酸の一つです。
加工油脂の場合、液状の不飽和脂肪酸を固形にする必要があります。その際、水素を添加して飽和脂肪酸というものに変化させるのですが、この作業の段階で発生するのがトランス脂肪酸です。
トランス脂肪酸は常温でも固形を保つことができ、酸化や劣化がしにくいという特徴があり、様々な食品に用いられています。しかし、トランス脂肪酸は体内で代謝されにくいので、人体の健康に様々な悪影響を及ぼすと言われています。子供の成長を阻害しないためにも、トランス脂肪酸の摂取を出来るだけ避けましょう。
トランス脂肪酸が及ぼす健康リスク
トランス脂肪酸は、水素添加した植物油を扱う過程で人工的に生成されます。現在、以下のような健康リスクが報告されています。
•悪玉コレステロール •動脈硬化 •心臓疾患 •ガン •免疫機能 •認知症 •痴呆症 •糖尿病 •不妊 •アレルギー •アトピー •アルコール依存症
などへの影響が報告されています。
体内には善玉コレステロール(HDL)と、悪玉コレステロール(LDL)がありますが、トランス脂肪酸を多く採ると、善玉HDLが減って悪玉LDLが増えることがオランダの研究で明らかにされています。
結果として、心臓病のリスクが高まるようで、日本でも同様の研究結果が発表されています。1999年6月に厚生労働省が「第6次改訂日本人の栄養所要量」中で、「トランス脂肪酸は、脂肪の水素添加時に生成し、また反芻胃の微生物により合成され吸収されることから、反芻動物の肉や乳脂肪中にも存在する。
トランス脂肪酸の摂取量が増えると、血漿コレステロール濃度の上昇、善玉コレステロール濃度の低下など、動脈硬化症の危険性が増加すると報告されている」と記述しています。
トランス脂肪酸が多く含まれる食品
トランス脂肪酸が多く含まれている食品を日常的に摂取しているか、ワースト5の食品グループをチェックしてみましょう。
製造会社によって、その含有量などは大きく異なる場合もありますが、下に示している食品を多用している人は過剰摂取している危険性が高いです。
食品別の平均トランス脂肪酸含有量は以下の通りです。
オイル系 | マーガリン、ピーナツバター、 マヨネーズ、コーヒーのクリームなど |
---|---|
お菓子系 | ケーキ、アイスクリーム、チョコレート菓子、クッキー、クラッカー、菓子パン、ポテトチップス、ドーナツなど |
インスタント系 | カップ麺、インスタント麺、缶のスープ、シチューのルウ、カレーのルウなど |
ファストフード系 | チキンナゲット、フライドポテト、フライドチキン、パイなど |
冷凍食品系 | から揚げ、ケーキ、ピザ、魚のから揚げ、コロッケ、天ぷらなど |
食品別の平均トランス脂肪酸含有量は下表の通りです。
食品名 | トランス脂肪酸平均含有量 (g/100g) |
---|---|
マーガリン・ファットスプレッド | 7.0 |
バター | 1.95 |
ショートニング | 13.6 |
ビスケット類 | 1.80 |
食用油等 | 1.24 |
ラード・牛脂 | 1.37 |
マヨネーズ | 1.24 |
チーズ | 0.83 |
クリーム類 | 3.02 |
ケーキ・ペストリー類 | 0.71 |
アイスクリーム類 | 0.24 |
菓子パン | 0.2 |
スナック菓子 | 0.62 |
即席麺 | 0.13 |
成長の敵!身体に悪い健康食品に要注意!!
年々、国内需要が高まりつつある健康食品(サプリメント)の中には、トランス脂肪酸を含む硬化材を使用したものが出回っています。健康になる、健康を維持するために健康食品を利用するのに、健康リスクが指摘されている商品が販売されているのは残念です。
健康食品の成分でよく目にするトランス脂肪酸含有の成分として「ナタネ硬化油」があげられます。この「ナタネ硬化油」は、ナタネを絞った残りカスに化学溶剤(水素)を添加し、揮発させて作られるのですが、水素添加の過程でトランス脂肪酸が生じるようです。
子供向け健康食品の中にもトランス脂肪酸を含んだ「ナタネ硬化油」を使用したものがあるとの報告もありますので、健康食品の成分にも注意が必要です。
海外で高まるトランス脂肪酸の危機感
アメリカのケンタッキーフライドチキンが2006年10月30日に、「トランス脂肪酸を含む調理油の使用は来年4月までに全店舗で止め、以後は同脂肪酸を含まない大豆油を使用する」と発表しました。
このように害があることが認識されているトランス脂肪酸に対し、海外では消費者も行動を起こしています。アメリカでは、トランス脂肪酸を含まない油に切り替える作業が遅れたとして、ハンバーガーのマクドナルドが訴訟を起こされています。マクドナルドは2002年9月に、「2003年2月までに調理油の全てを、トランス脂肪酸を含まない油に切り替える」と発表しました。
しかしそのスケジュール通りに作業は進まず、健康問題活動家がマクドナルドを訴えています。この件はその後、マクドナルド側が850万ドル(約10億円)の和解金を払うことで治まりました。使用中止を発表したケンタッキーフライドチキンも、訴訟を起こされています。訴訟は消費者団体によって提起されたもので、同社はトランス脂肪酸を含む油の使用を止めるか、あるいは消費者に健康上のリスクを知らせる一文を挿入するべきだという内容のものでした。
さらに同じハンバーガーチェーンのウェンディーズは、トランス脂肪酸の使用量を削減すると発表。バーガーキングも、一部店舗でトランス脂肪酸を含まない油を試験的に使用することを発表しました。
トランス脂肪酸の禁止国・制限国
アメリカ
2006年1月から加工食品の栄養成分表示において、総脂肪、飽和脂肪酸、コレステロールに加えてトランス脂肪酸量の表示を義務づけられました。
ニューヨーク市は全米のトランス脂肪酸量表示義務より一歩踏み込み、外食産業でのトランス脂肪酸使用禁止を打ち出し、
2007年6月より施行しました。
デンマーク
2004年1月から食品の製造・加工過程で生じたトランス脂肪酸については、消費者向けに販売される最終製品に含まれる油脂100gあたり2g未満とする制限が設けられています。
カナダ
2005年12月からの加工食品の栄養成分の表示義務化の中で総脂肪、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、コレステロールを表示対象としています。
シンガポール
2012年、政府がトランス脂肪酸の使用制限に取り組み始めました。
若者の間にファーストフードが蔓延し、これを改善化してバランスの摂れた健康的な食生活を普及させる目的もあります。
ドイツ
ドイツではマーガリンの使用が制限されています。
その理由の背景に、腸の慢性炎症疾患でクローン病という難病があります。ドイツではマーガリンの摂取とクローン病の因果関係が証明されました。
フィンランド
フィンランドでは、トランス脂肪酸ゼロのマーガリン「ベネコール」(商品名)は同国マーガリンの売上げのトップを独走しています。
オランダ
トランス脂肪酸を含む油脂製品を販売禁止しています。
トランス脂肪酸に対する日本の現状
日本国内では平成23年2月21日、消費者庁が商品への含有量の表示のガイドラインを発表しました。
<海外において0と表示できる場合のルール例>
アメリカ 1食当たり 0.5g 未満
カナダ1食当たり0.2g未満、かつ飽和脂肪酸とトランス脂肪酸の合計が2g未満、かつ飽和脂肪酸とトランス脂肪酸の総エネルギー合計量が15%未満
アルゼンチン ウルグアイ パラグアイ ブラジル 1食当たり0.2g未満
台湾 100g当たり0.3g未満
香港 100g当たり0.3g以下
韓国 1食当たり0.2g未満
ちなみに日本の場合は
「0gと表示できるのは、原則としてトランス脂肪酸が含まれない場合に限られるが、食品100g当たり(清涼飲料水等にあっては100ml当たり)のトランス脂 肪酸の含有量が0.3g未満である場合には、0gと表示しても差し支えない。」とされています。
成長のために安全な食品を選ぶ
脂肪を多く摂る欧米では、トランス脂肪酸による健康への悪影響も日本よりかなり顕著に現れています。だからこそ、消費者の認識度も高く、日本の十数年も前から対策を立てているのです。
例えばデンマークでは、2004年1月から全ての食品について、油脂中のトランス脂肪酸の含有率を2%以下にするよう制限されました。しかし食のスタイルが年々欧米化している日本では、100gあたりの含有量が0.3g未満であれば「ゼロ」表示が認められています。
これまでの食生活を考えると「トランス脂肪酸の影響が今後も絶対出てこない!」とは言い切れません。
様々な健康リスクが問題視されているトランス脂肪酸が子供の成長にとっていいわけがありません。大事なことは、私たち消費者が正しい知識をしっかりと持ち、安全な食品を選んでいくことではないでしょうか。